第14回再開発塾の講演概要
■ 日時 : 平成15年11月21日(金) 午後3時15分〜4時15分
■ 場所 : 兵庫県川西市 川西市役所7階 大会議室
■ テーマ :「都市再生機構と再開発事業について」
■ 講師 : 都市基盤整備公団 理事(再開発・居住環境整備等担当)河崎 広二 氏
司会(笠原): それでは、総会に引き続きまして、全国市町村再開発連絡協議会によります「第14回 再開発塾 講演会」を始めさせていただきます。本日は、お忙しい中、ご参加いただきまして、ありがとうございます。私は司会を務めさせていただきます事務局の笠原です。どうぞ、よろしくお願いいたします。
本日の講演は「都市再生機構と再開発事業について」をテーマに、講師を務めていただきますのは、都市基盤整備公団理事の河崎広二様です。河崎理事様は、東京大学経済学部をご卒業後、建設省へ入省。住宅局住宅政策課長補佐、
「都市再生機構と再開発事業について」
都市基盤整備公団 理事
(再開発・居住環境整備等担当)
河崎 広二 氏
●はじめに
都市基盤整備公団理事の河崎です。皆様方には、日頃から、都市基盤整備公団の業務に対してご支援を賜り、この場をお借りしてお礼申し上げるしだいです。
今、ご紹介がありましたように、この7月まで国土交通省におりまして、最後の職が政策統括官という職でした。先日、道路公団の藤井総裁の解任の時に聴聞という手続きがありましたが、実は私の後任者がその主催者なったということで、同僚からは「いい時機に辞めて良かったな」と言われたところです。
私がその1年間ほどの中で取り組んだ一番大きな仕事は、都市再生機構法案という、新しい都市再生機構を設立するための法案の取りまとめと、国会審議の対応でした。したがいまして、この都市再生機構のこれからの業務のあり方については、この1年間、随分と議論を行ったという経緯があります。
その法案が上がった直後に国土交通省を退いて公団へ来ることになり、複雑な感じもしましたが、本日は、「都市再生機構と再開発事業」というテーマで1時間ほど話をさせていただきますので、できれば、国会審議の中で出てきたようなことも交えながら話をしたいと思います。
●公団設立依頼の組織の変遷
我々の公団は、昭和30年に日本住宅公団として設立されました。戦後の住宅政策は、住宅が420万戸不足するという課題を抱えており、つまり、住宅の戸数と世帯数のギャップが420万あったということですが、そのために、住宅・宅地を大量に供給しなければならないということで、我が公団が発足したわけです。
その後、昭和30年代と40年代の2回の地価高騰期がありましたが、それを経て、特に大都市の宅地需給が逼迫したことから、若干、遅ればせではないかと思いますが、昭和50年に宅地開発公団が設立されました。
住宅政策の課題は、昭和40年代に住宅不足が完全に解消され、昭和50年代以降は「住宅の量ではなく、質の時代」と言われるようになりました。その中で、公団の仕事は、単に住宅・宅地の大量供給ではなく、まちづくりと一体なって質の高い住宅・宅地の供給を行うことが必要であるとされて、昭和56年に住宅都市整備公団という形に組織が変わりました。
その後は、住宅・宅地の供給は民間で十分にできるのではないかということになり、平成11年に、まちづくりをメインコンセプトとして業務を展開する都市基盤整備公団に変わりました。つまり、分譲住宅は完全に民間で構わないということで、まちづくりの公団という形に変わったわけです。
このように、戦後の住宅市場の変遷の中で、この分野における民間の供給力が徐々に充実してきた中で、公団としての業務や組織形態の見直しを行う形で、組織も変わってきたという経緯があります。つまり、住宅・宅地の大量供給から「まちづくり」へのシフトであり、主に民間との関係で、徐々に、本来の公的機関としての役割になっていったという歴史があるわけです。
●都市再生機構への改革の背景
<特殊法人改革>
そこで、今回の都市再生機構への改革ですが、特殊法人すべての見直しの一環として、さらに民間との関係を再整理することが一つの大きな背景となっています。つまり、「民間で対応できるものは民間で」ということを徹底しようというのが、今回の改革の見直しの大きな背景です。
<都市化社会から都市型社会へ>
それから、実はもう一つ、まちづくりの課題が大きく変化したという観点からの改革の流れがあります。
戦後の高度成長の時代、あるいは、人口の大都市集中が進む過程において、これまで既成市街地の土地の有効利用が行われないままに、市街地はメリハリのない平板な形で外延的に拡大してきたわけですが、これがそろそろ終わるという大きな転換点を迎えています。
一つは大都市への人口集中が止まって、日本全体の人口も平成7年にピークを迎え、減少局面が間近に迫ってきたことが、都市の外延的拡大の終焉という形につながってきたということです。
もう一つは、いわゆる右肩上がりの土地神話が崩壊し、まちづくりの課題の変化に大きな影響を与えています。特に、企業の土地保有意識が大変大きく変化しました。従来は土地の値上がりを当てにする含み益経営がよく言われましたが、これが地価の下落によってそういうことができなくなり、企業としては「これからはキャッシュフローの時代だ」「キャッシュフローを中心に経営をしていかなければならない」という形になったわけです。
そうすると、土地をたくさん所有するということは、企業財務上、大きなマイナスになります。企業の評価に総資産収益率という概念がありますが、土地をたくさん持っていると分母である総資産が膨らむことになりますので、収益率が低くなり、それが株価に影響を与えます。したがって、このところ、企業は既成市街地の土地を売りまくっています。
以前、企業における土地の売り買いは、大体、買い越しでした。個人が土地を売って、企業が土地を買うというのが相場でしたが、最近はそれが逆転して、企業の売り越しが毎年5兆円という、巨額な売り越しを続ける形になっています。この既成市街地における企業の土地売却が、既成市街地の土地利用を構造的に変化させる要因になっており、それを契機に既成市街地の有効利用、あるいは、土地利用の再編が大きな課題となってきました。これが、実は都市再生という言葉につながっているということです。
したがって、これからのまちづくり、都市づくりは、戦後、営々としてつくり上げられた既成市街地の中で、20世紀の負の遺産といわれる密集市街地の問題や慢性的な交通渋滞の問題などを解決し、産業のみならず文化、芸術などあらゆる面で国際的に通用する、国際競争力のある21世紀の新しい都市づくりを行っていくことが大きな課題となってきました。これが、今回の都市再生機構への改革の大変大きな背景の一つになっているのではないかと思います。
●都市再生機構の業務とその特色
<基本方針>
都市再生機構は、今年の6月に法案が成立し、来年の7月1日に衣替えをするわけですが、具体的には、都市公団と地域振興整備公団の中の地方都市整備部門を統合しまして、新たに独立行政法人都市再生機構を設立するというのがその中身です。
その中で、先程、「民にできることは民に」ということを徹底していくと申し上げましたが、都市再生機構も都市再生分野における民間の新しい事業機会を創出する、あるいは、民間の潜在力を最大限に引き出すための誘導業務、条件整備を実施していきます。我々の公団は昭和30年設立以来、75万戸の賃貸住宅を蓄積し、現在も管理していますが、その管理に民間の力をできるだけ使う形で、むしろ、「民にできることは民に」という考え方以上に、積極的に民間の投資を引き出して、経済の活性化や都市再生の実を上げることを目指すことにしたわけです。
そこで、都市再生機構の業務を考える場合、ポイントが二つあります。一つは、建築物を建てる、あるいは、それを適切に管理することについては、完全に民間に任せてよいのではないかというのが一つのポイントです。
もう一つのポイントは、民間がしだいにできなくなっている部分です。昭和40年代までは、民間も電鉄系のデベロッパーのみならず、一般のデベロッパーも、長期間かかる宅地開発や大規模な再開発事業を積極的に行っていました。その頃は、年々、土地が値上がりしていましたので、土地を購入してから少々時間がかかっても、その値上がりによって企業の評価も高まり、リスクも吸収できたわけです。
しかし、50年代に入って、そういう時代ではなくなってきました。前述のように、資金を早期に回収しないと民間は運営できませんので、昭和50年に入ると、民間は宅地開発から早々に撤退していますし、再開発事業も最近では細かなものはあるかも知れませんが、1社だけではやらないというケースが非常に増えています。投下資金が多くて、キャッシュフローを生むまでに10年、20年かかるようなものになると、当面の間、資産ばかりが膨らんで収益が上がらないという状態になるので、株価の下落の要因になってしまいます。ちなみに、東京の日本橋の東急デパート跡地を民間のいくつかのデベロッパーが買う時に、まとまっていて開発のしやすい土地でしたので、以前であれば「買う」と言った時点で株価が上がっていましたが、最近では、計画を具体化する前に土地を買うと株価が下がるという時代になっています。
新しい機構の仕事を考える際は、そういうことを一つの要因として考えていく必要があると思います。したがって、建築物は民間ですが、建築物が建つまでの過程においては、公的機関が条件整備を行っていかなければならないという形で、都市再生機構の業務のあり方を決めていったという経緯があります。
六本木ヒルズは、森ビルが17年間かけて、六本木の市街地の真ん中で実施した再開発事業ですが、実は国会審議の中で、大臣が、都市再生のある意味で象徴的なものとして、六本木ヒルズについて答弁をされたので、そこでひとしきり議論が出ました。ある先生は、「森ビルが17年間かけて市街地再開発事業をできるのであれば、何もこの法案にあるような都市再生機構などは必要ないのではないか。民間にすべてを任せればよいのではないか。」という議論をされ、一方で別の先生は、「六本木ヒルズのようなビルを民間が次から次へとできるとは思えない。17年間というのは大変長い時間で、17年経たなければ結果が出ないようなことは、普通、民間はしないのではないか。」という議論をされました。
私は、最終的に後者の先生の意見に賛同を示しつつ「企業に対する評価が厳しくなっているので、株式を上場しているような企業が17年間の歳月をかけて、大規模な数haの再開発事業をすることは、事実上、不可能ではないか。」という答弁をしました。実は、森ビルという会社は株式を上場していない会社で、かつ、株主もあまりうるさいことを言わない会社ですが、そこまで言うと森ビルをバカにしたような印象を与えますので、国会ではそこまでは答弁をしませんでした。世の中の人は森ビルが上場していると思っているかもしれませんが、あのように莫大な資産を持っていて、キャッシュフローがすぐに出る必要がないという会社であればできるかも知れません。しかし、森ビルもこれからはやらないと思いますし、六本木ヒルズでもあまりいい成果は挙げていないのではないかと想像しています。
<「フルセット型」から「バックアップ型」へ>
それでは、これから都市再生機構の仕事をどうするのかと言いますと、これまでの公団時代は、いろいろなバリエーションがありましたが、いずれも土地を買って、権利調整を行い、基盤整備を行って、敷地を整備して、建物を建てそれを管理するところまで行う、いわゆる「フルセット型」の事業方式でした。しかし、これからは民間投資を誘発する「バックアップ型」に転換していこうという方針を打ち出したわけです。
@都市再生分野
・民間都市開発事業の条件整備
具体的な業務としてはいくつかの分野がありますが、メインの都市再生分野については、民間都市開発事業の条件整備を行います。
たとえば、大規模な工場跡地や密集市街地の整備は、当然、民間の建築活動だけではうまくいきません。そこで、権利関係の調整や民間と行政機関との橋渡し、あるいは、都市計画についての提案など、コーディネートを行います。今度の法律では、提案権限として、都市計画の提案を行う権限を都市再生機構に付与するという制度もつくりましたので、そういう形でコーディネートを行って、大規模なところであれば関連する公共施設の整備を、直接施行や公共団体からの受託などの形で行って、敷地を整備し、建物が建つ状態にして、後は多様な民間の方々に入っていただき、建物を建てて管理していただくというのがメインの仕事と考えています。
・民間による賃貸住宅等の供給を誘導
賃貸住宅の供給については、昭和30年代以来、公団は賃貸住宅を建てて管理し、それが76万戸の賃貸住宅になったわけですが、これも非常に厳しいながら、建物は民間で建てて管理をしていただく、要するに、民間の賃貸住宅という形に変えていくことになりました。
ご承知の方もおられるかも知れませんが、わが国の戦後の賃貸住宅市場は、3〜4人が住むようなファミリー向けの賃貸住宅が非常に不足しており、それを公団が補完する形で進めてまいりました。その背景には、おそらく地主が自分の所有地で賃貸住宅を行い、土地代を家賃に転嫁しない市場ができ上がったために、企業が土地を買って企業ベースの利回りをそれに期待すると、家賃が取れない市場になってしまったということが一つあります。
また、地主が供給する場合も、1940年以降の借地借家法の運用で借家人の保護が非常に厳しい形になったために、長居をするような借家人は入れないようにして、小世帯で回転が早く、礼金がたくさん貰えるような、どちらかといえば、小さな賃貸住宅を供給したという背景もあります。そのことがファミリー向け賃貸住宅供給の不足の原因になっており、新しく土地を買ってそれをつくる場合は公団が行うという形で進めてきましたが、これも民間に任せようということです。
しかしながら、現在の賃貸住宅市場は、地代利回りが民間ベースの半分以下しか取れないような市場ですから、黙って土地を民間に売っても、賃貸住宅のために買う人はいません。ですから、土地は公団が取得をして、公団の資金にも金利が付いていますので、その金利を国費で若干薄めて、安い利回りでも賃貸住宅が成り立つような状態にして、民間に定期借地で土地をお貸しして賃貸住宅事業を行っていただく、民間供給支援型賃貸住宅制度がつくられました。
ただ、国費で援助をするといっても、赤字が出ないくらいの援助しかできません。民間ベースであれば、当然、それに一定の利益が出なければならないという問題がありますので、どこでもできる形ではなく、これを普及させるのは難しいと思われます。したがって、この制度をこれからどのように育てていくのかということは、都市再生機構になって以降も大変大きな課題になると考えているところです。
・民間都市開発事業や建築投資の支援
3番目は、民間都市開発事業や建築投資の支援です。建物の建設管理は民間に委ねるという話をした一方で、実は、民間だけでは建物を完全に建てられないような開発事業や再開発があるのではないかとも考えられます。
たとえば、数街区あるような大規模な再開発は、最初の段階では、当然、建物を建ててもキャッシュフローが安定しません。つまり、街の熟成度が低いので、なかなか民間では簡単にいかないわけです。そういう場合、民間が7割ぐらいのリスクが取れるならば、今でも参加組合員という形で行っていますが、残りの3割部分について、公団が民間の再開発を完遂するような支援を行うということです。
前述の「民間に任せる」という方針に、若干、矛盾するような話ですが、そういう形で、民間の再開発を成り立たせるようにすることも必要な状況ですので、こういうことも業務の一環として取り組むということです。
A賃貸住宅の適正な管理
また、賃貸住宅約76万戸の適正な管理もあります。これについても、今度の改革の中で、乱暴な方からは「民間に売却してはどうか」という議論がありましたが、先程申しましたように、ファミリー向けの賃貸住宅がまだ不足していますし、何よりも、今、2,200万人の方々がそこに住んでいるわけですから、その居住の安定を図っていくことも必要です。
また、民間ベースで賃貸住宅を委ねる場合も、万一、居住者が納得をしても安い値段でなければ売れませんので、そうなると大赤字が出て国民負担になってしまいます。したがって、これについては引き続き適正な管理を行うことになります。
ただ、古い賃貸住宅については、昭和30年代につくった大団地などの建替えを着実に行っていかなければなりません。その場合、また大団地を再生するのではなく、大きなエリアがありますので、総合的なまちづくりとして、いろいろな機能を入れる形で建替えを実施します。そういう意味で、そういう仕事は都市再生につながる、あるいは、都市再生そのものの業務になると考えています。
B国家的プロジェクト等
これらが二本柱の大きな仕事であり、その他は、筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市のような国家的なプロジェクトがあります。
C経過措置業務
それから、昭和50年代に入って民間が宅地開発から撤退をしたために、ニュータウンの整備は、専ら公団が一生懸命に取り組んできたという経緯がありますが、市街地の外延的拡大が終焉する中で、これも大変厳しい状況になっています。これをできるだけ早期に整理しなければならないということも課題になっています。
このような仕事を都市再生機構が行うことになりますと、当然、公共性の高い業務は都市再生機構が担い、収益性の高い部分は民間に担っていただくことになるので、業務を行う時に、これまでと同じように財投を中心にした低利融資だけではうまくいかなくなります。したがって、当然、国の出資金や補助金も確保しなければなりません。
国会審議では「行政改革だから国費も減るのか」というような、いろいろな指摘がありましたが、私としては、業務が撤退する部分における国費が減少するのは当たり前ですが、今のような業務の性格付けの観点から、新しく都市再生に乗り出していく分野については、「必要なものは必要である」と、叱られながらも答弁をしました。
財政事情が厳しくて大変ではありますが、少なくとも、赤字だから国費で補填するという考え方ではなく、前向きに公共性の高い仕事をしていくということですので、これからはそういうところで国費を入れて、それによって民間投資を引き出し、民間投資によって収益が生じて、それを税金で回収するという流れになっていくということです。
以上が都市再生機構のこれからの業務の骨格になります。
●独立行政法人化に伴う業務運営の変化
皆さんにわかりにくい話として、独立行政法人化があります。特殊法人が独立行政法人になればどうなるのかという質問をよく受けます。特殊法人という形のままで、新しい業務をすればよいのではないかということですが、それを独立行政法人という形にして、いろいろな経営上の改革をしようということです。
一言で言いますと、これまで特殊法人時代には、業務がどのように行われているのか、収支がどうなっているのか、それぞれ業務の結果としての責任はどうなっているのか等々が不透明だという指摘がありましたが、それをこれからは徹底的に情報開示もするし、評価も行うという形にすることが改革になるわけです。
<資産の時価評価>
具体的には、まず、今持っている資産を時価評価して新しい機構に引き継ぎます。これまで住宅公団から住宅都市整備公団になり、都市基盤整備公団になった時の資産の継承は、あくまでも簿価のままで継承してきましたが、今回は、今持っているすべての資産を時価評価して引き継ぐことになります。したがって、含み損のあるものは含み損が明解に表れますし、逆に、含み益のあるものは明解にそれが出てきます。法律上、来年の7月1日から新しい機構になりますので、7月1日の時点で、第三者の評価委員がすべてを評価して機構の資産にすることになっています。
最近、道路公団の財務諸表の問題が出ていますが、不毛の議論をしているという思いがあります。「財務諸表がないから作りなさい」という話になって財務諸表を作るのは構わないのですが、資産は再調達原価で評価されています。道路を再調達原価で資産に計上してどういう意味があるのかと思ったわけです。道路は処分できるものでないので、当然、キャッシュフローを前提として資産が評価されなければ何の意味ないと思うのですが、そういう財務諸表が作られていました。かつ、道路公団自身で行うと、どれほど立派な評価をしても必ず批判にさらされます。「ウソをついているのではないか」と必ず思われるのです。そういった意味では、今回の時価評価は、第三者に評価してもらう形になっていますので、適切な法的措置ではないかと思います。
<企業会計原則に拠る財務諸表の作成>
時価評価をした上で、来年7月以降に業務が始まりますが、それからの財務諸表は企業会計原則を徹底することになっています。
これまでの公団の財務諸表は、公企業会計ベースという言い方をしていますが、いろいろな特別な措置がありました。たとえば、今は費用になっていても、将来、確実に回収できるものであれば、費用に計上せずに、繰延資産で計上する。あるいは、バブルなどの地価上昇期には思わぬ黒字が出ますが、それは将来に赤字が出た時の取り崩し用の資金として、利益に計上せずに準備金としていました。
これからは、そういうものがすべて否定されて、民間並みに費用計上するし、利益を出す時は利益を出すという形にします。それから、民間で行われている資産の強制評価減、つまり、資産の中でかなり時価が下がったものについては、強制評価減をして欠損金でそれを計上するといったことが具体的にあります。それから監査法人による監査が義務付けられます。
<評価委員会による業務実績評価>
もう一つ大きな点は、評価委員会による業務実績評価です。独立行政法人の制度では、各省庁に独立行政法人評価委員会という、大臣のもとで学識経験者や専門家が集まった委員会が、ある意味、独立した存在として設置されています。独立行政法人は中期目標や中期計画を持っていて、毎年、年次事業計画を作りますが、毎年度、事業実績をその評価委員会で評価します。そして、制度上、中期計画は3年〜5年と決められており、おそらく、我々の機構は5年になると思いますが、5年経って中期計画が終了した時点で、改めて全体として5年間の業務の実績を独立行政法人評価委員会で評価をして、それが大臣に報告されます。大臣はそれを受けて、いろいろな業務を行っている場合は「この業務はやめよう」とか、「もっと拡充しよう」とか、場合によって「この組織はダメだからやめよう」とか、「組織は必要だが業務成績が悪いのは理事長の責任なので、理事長をクビにしよう」など、いろいろな措置を講じる仕組みになっています。そのように、従来よりもはるかに、経営状況や経営責任が問われるような仕組みになるわけです。
我々としては、来年7月以降、経営の合理化・効率化もシビアになりますし、コスト意識も非常にシビアになりますので、たとえば、公共団体との関係で、従来であれば「この程度は何とかしましょう」と気楽に要望を受けていたものも、来年の7月以降はそのようにはいかなくなって、「堅いことを言う」と思われるようなことを公共団体の方々に言うようになるかも知れません。その点はご理解をいただきたいと思います。
以上が、都市再生機構についての全体の説明です。
●市街地再開発事業の取り組みと課題
最後に、今後、市街地再開発事業にどのように取り組んでいくのか、あるいは、どのような課題があるのかということについて話をしたいと思います。
<これまでの公団の実績等>
これまでの市街地再開発事業の実績を見ますと、関西地区では、公団が直接的に施行したものは少ないようです。震災ではかなり協力をさせていただきましたが、震災関連を除くと、直接施行は少なく、むしろ協調型、つまり、組合施行の再開発事業に参加組合員で協力するというケースが多いようです。
これは、関西には地元の方々が自ら事業を行うという気風があるからで、全面的に外から来た人にやってもらうという形の事業は少ないと聞いていますが、これからは機構の施行であっても、地元の方々と協力して協調型で行うことになりますので、さらにいろいろな形で取り組みを広げていきたいと思っております。
<機構における市街地再開発事業の取り組み>
具体的なこれからの取り組みについては、先程来お話ししているように、民間の事業者に頑張っていただかなければならないのですが、民間事業者は大規模なものや複雑な権利調整を伴うものについては、経営上の都合から、なかなか取り組めないという状況があります。
@初動期の事業化推進支援
一方では、我々が全てをフルセットで行うことは止めて、できるだけ民間事業者を活用していくことになっていますので、ある意味で、矛盾するような状況の中で事業を進めていくわけです。そのために、まず、初動期の事業化の推進支援を徹底して行う必要があります。協議会や準備組合の運営支援や、計画づくりの手伝い、権利調整の支援等のコーディネートを初期の段階から行っていきますし、民間事業者に積極的に活躍していただくため、早い時期から民間事業者の方々に参画していただく形を取っていきたいと思っています。
A機構による市街地再開発事業の施行
このように、できるだけ地元中心に事業を形づくっていこうということですが、やはり、大規模な再開発事業になると、権利者も多く、民間では簡単にできませんので、機構が自ら施行者になることになります。当然、その場合も、基盤までは機構が行いますし、再開発に関連して、たとえば、どうしても街路を一本抜かなければならない時などは、関連公共事業ということで街路を抜きますが、あくまでも、建物の立ち上がり段階では民間を活用していくことになります。
現在、法律で施行者以外の参画方式としては、特定事業参加者、特定業務代行者、特定建築者というものがあります。特定事業参加者は、組合再開発事業の参加組合員と同じような位置付けで、建物の一部の保留床を取得していただいて、事業段階から資金を出していただくという手法です。特定業務代行は、建物を公団や機構が発注する代わりに保留床処分の責任を持つという手法です。特定建築者は、建物を建てる段階で、敷地で譲渡して、建物を建てて保留床を取得していただくというものです。こういうものを、すべての施行地区において、何らかの形で積極的に使っていきたいと思います。
しかし、いきなり民間の方々にお願いするのは難しいので、参加誘導のための再開発共同事業者エントリー制度というものをつくりました。再開発の早い段階で、興味のある民間事業者の方々にエントリーをしていただいて、民間なりの計画を提案していただき、それによって民間事業者が参画しやすい再開発事業にしていきたいという趣旨で、この制度を実施しています。
そういう形で、大規模な市街地再開発事業については、引き続き、機構で事業を施行していくようにしたいと思っています。
B民間再開発事業の支援
一方で、民間だけでは全体としての再開発が成り立たない場合は、公団が主人公の時に民間に入っていただくように、今度は逆に、民間が主人公の時に、参加組合員や、特定建築者、特定事業参加者という形で、公団や機構が入っていきます。そのように、民間と機構がパートナーシップを常に取りながら、再開発事業を進めていこうと考えられています。
また、民間の再開発事業であっても、関連する公共事業を機構の方で受け持つことも、併せて支援事業として行っていくという形をとりたいということです。
<再開発事業のシステム上の限界>
最後になりますが、今、説明しましたような仕事が、これから何の課題もなく、スムーズに展開できるのかと言いますと、いろいろと大きな課題が出ています。
現在の市街地再開発事業、これは区画整理事業も全く同じことが言えますが、現在の枠組みでは非常に難しくなっている面があります。これは、再開発事業のシステム上の限界と言えます。
@保留床処分リスクについて
一つは、保留床処分のリスクです。従来は地価の右肩上がりというものが、保留床処分のリスクを吸収していたわけですが、それが期待できなくなっています。
一方で、今の法律は、施行者のノーリスク・ノーリターンを理想として制度ができていますが、制度はノーリスク・ノーリターンでも、最終的に保留床が処分できない場合は、施行者が責任を取らざるを得ません。うまくいくところはノーリスク・ノーリターンでよいのですが、うまくいかない部分が出てくると、これからの施行者はそのリスクだけを負う施行者になってしまいます。
ですから、ある時には薄く儲かるような仕組みにして、ある時は損失をカバーするという形にならなければ、これからは難しいのではないかと思われます。
A保留床処分に係る地方公共団体の役割について
それから少し角度は違いますが、現在の事業環境の中で、地方公共団体の役割も重要となります。地方公共団体も財政事情が非常に厳しい中にあるので、保留床処分で公益施設をできるたけ導入していただきたいという我々の要望はなかなか難しい面がありますが、現実問題として、公益施設の導入は大事になっています。
現在の財政ニーズからすると、重点を置かなければならないのは、高齢者関係や福祉関係の施設です。再開発は駅に近い、車に乗らなくても行けるところで行われますので、福祉施設の導入を積極的に保留床処分として行わなければならないということです。
しかし、この場合、予め取得を約束できないことが課題です。我々の再開発事業だけではなく、いろいろなところで公共団体は約束をしていただけるのですが、何らかの事情で「お約束が果たせなくなりました。」というケースが、最近、非常に目立っています。特に、途中で市長が替わられたりすると、方針が全く変わってしまいます。
先程、「公益施設を保留床で」と言いましたが、市民ホールをつくる約束をしていたのに、財政事情で市民ホールができなくなり、区民ホールに規模が縮小されたという話や、あるいは、区画整理事業で、かなりきちんと区画整理をするということでしたので、公団でかなりの先行投資をして区画整理事業の換地処分のようなことまでした挙げ句に、市長が替わられて、「その区画整理は止めます」と一方的に言われたケースなどいろいろとありました。
そういう辺りで、公共団体の方々と我々との約束をどのようにしていくのか、これから真剣に考えなければなりません。これは少し毛色の違う話ですが、公共団体とうまく連携を取るという意味で課題になっています。
B初動期支援に要した費用について
それから、これまでは、最後まで事業を仕上げて、その中で初期段階のいろいろな費用を飲み込んできたわけですが、これからはそのようにいきません。 初動期には、その地区の根回しのために職員が相当動くなど、主に人件費が多いのですが、独立行政法人になると評価が厳しくなりますので、そのような費用をどのように回収していくのかということが問題になります。
地方公共団体の場合は、一般の職員が再開発などで活躍されますので、人件費は一般財源ですが、我々は金利の付いたお金で商売をしていますので、事業が厳しい環境になるにつれて、その辺りの回収問題が大きな問題として出てくると思います。
もう一つ、初動期の問題として、先程、再開発にできるだけ早く民間に入ってもらい、民間の知恵を活用して、民間が入りやすい再開発にしていくために、エントリー制度を行うと言いましたが、エントリー制度で行ったとしても、最後にエントリーした人が特定事業参加者や、いろいろなものになる時に、法律上、改めて公募しなければなりません。場合によっては、エントリー制度で入って、一生懸命、再開発のために仕事をしていただいた民間の人が、最後に公募で入札をして負けることもあるというのが現在の制度です。早めに民間の方に入っていただくためには必要なのですが、その一方で、最後にトンビに油揚げをさらわれるということも、現在の制度ではあり得るわけですから、この辺りも、これから少し制度的な検討が必要になるのではないかと思っています。
●地方独自のまちづくり
最後に、これからは地域公団が機構の中に入りますので、地方の再開発の問題が出てきます。今、中心市街地が非常に疲弊している中で、地方の再開発は厳しい環境にあります。多分、これからは、東京のように、高層、超高層によって勝負をするような再開発事業ではだめではないかと思います。今までは、東京や大阪という大都市の延長線上の発想で、地域づくり、まちづくりが地方でも行われてきました。これを金太郎飴のようなまちづくりと言っていますが、これからは、そういう高度成長期のようなやり方、つまり、Aという地域でできたので次はB、次はCというのでなくて、AはAなり、BはBなり、CはCなりの個性あるまちづくりの時代になってくると思います。
そうすると、地方では、保留床に依存して権利変換によってただで床を取得するという再開発は難しくなりますので、地方独自のまちづくりのために、デベロッパーだけではなく、住民の方々が新しいまちへの投資という観点から再開発に取り組んでいかなければ、なかなか進まないのではないかと思います。
そういう機運をこれから醸成していくことが、我々、まちづくりのコーディネーターの役割として、非常に大事ではないかと思います。今のような厳しい状況で、説得力がないかも知れませんが、ある意味で、地方の方々がベンチャー的精神を持って取り組んでいくことが必要だと思います。
先日、テレビで湯布院のまちづくりが放映されました。東京型の開発を排除することによって、「最も行ってみたい温泉地」になったということでしたが、条例でリゾート型マンションを規制し、景観を保存するなどの努力をされたようです。再開発事業とは少し離れますが、ある意味では、そのような気持ちでこれから取り組んでいくことが大事ではないかということを、最後に付け加えて、私の話を終えたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
司会: 河崎理事様、どうもありがとうございました。本来ですと、ここでご質問をお受けするのですが、本日は時間の関係で省略させていただきます。では、終了にあたりまして、もう一度、理事様に拍手をお願いいたします。
河崎: ご質問等がございましたら、インターネットでお願いします。
司会: ありがとうございます。
これを持ちまして、全国市町村再開発連絡協議会 平成15年度総会・講演会を終了いたします。本日は、お忙しい中をご出席いただき、どうもありがとうございました。
以 上